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2006年 08月 31日

「当事者主権」

前に触れた中西正司、上野千鶴子共著の『当事者主権』を読み終えました。これはいい本だと思います。
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn0310/sin_k143.html

女性、障害者、少数民族、そのほか、さまざまな「属性」を持ちながら、つまり複数の特徴と、社会的立場が合わさったものとしての性格を個人は持つのです(個人の社会的性格)。しかし、その社会的に決められる、あるいは偶然に規定されるという存在だけでなく、自らの「個性」を「可能性」をポジティブに達成していく、という自由を持ちます。

そのような考えから、その自由を制約するような、社会的構造、あるいは偏見−−「不自由」にしているもの−−を、運動しながら除去していく−−それが(私の言葉で訳したものだけど)「当事者主権」という考え方です。たとえば、女性問題の専門家、医者、などが、女性・患者という当事者の生き方、生活方法などを決定するのではなくて、当事者自身が決定する、主権を持つ、という考え方です。

当事者主権、という考え方から、それぞれが住む地域社会を組み替える。すべての人が可能性を追求できる、また職を持つ自由を保証される、そういう地域をつくっていくという構想を著者たちは持ち、そして、それぞれの「当事者」としてのフィールドで実践してきました。

障害者の当事者運動としての自立生活センターの運動の軌跡には、勇気を与えられるのではないでしょうか。

私のしたいのは、このようなあちこちの地域の当事者運動の連絡網となるようなメディアをつくることです。

本来、トランス・コミック・エクスプレスも、まえにいたNAM(New Associationist Movement)も、そのような運動を目指すべきだったのだと思います。実際に不登校者のための学校などの運動が生まれつつあったが、しかし、結局当事者中心ではなく、エリートの考えの当事者たちへの押し付けの運動体、となってしまったと思うのです。

また、この『当事者主権』の本の最後に批判されているような、「非営利」「非具体的目標」団体は、その組織自体の存続を目指すようになってしまう、官僚制が育ってしまう、という現象、これがNAMには当てはまっていたと思います。ただ、良かったのが、自主的に組織を最後は消滅させることができた、ということでしょう。

現在、あちこちに散らばったインテリたちが一生懸命、それぞれの地域の当事者たちとつながろうと努力し続けてます。それらの活動をマンガやイラスト、写真などを盛りだくさんに紹介し、また、研究者などが分析する、そのような場を、メディアを作りたい。

話が別のところに行きましたが、ちょっと話の繰り返しが多いような気もしましたが、この『当事者主権』という本は急所を突いた、いい本だと思いました。おすすめ。


p.8 「高齢者に限らず、誰でもニーズを他人に満たしてもらいながら自立生活を送っている。そう考えれば、高齢の要介護者や障害者の「自立生活」は、ちっとも不思議なものではない。〔程度問題に過ぎない〕最後まで自立して生きる。そのために他人の手を借りる。それが恥ではなく権利である社会を作るために、障害者の当事者団体が果たしてきた役割は大きい。」

p.18「代表制の間接民主主義ばかりが民主主義ではない。民主主義には、直接民主主義や参加民主主義、そして多数決によらない合意形成のシステムもある。民主主義が多数決原理によっている限りは、人口の約3%といわれる障害者は決して多数派になれず、「最大多数の最大幸福」のために排除され抑圧される運命にある。また、当事者主権の考え方は、第三者や専門家に自分の利益やニーズを代弁してもらうことを拒絶する。誰かを代弁することも、誰かに代弁されることも拒否し、私のことは私が決める、という立場が当事者主権だから、代表制の民主主義にはなじまない。」

p・35「長い間施設や在宅で保護と管理の下にあった障害者は、失敗から学ぶ経験を奪われ、主体性を持たない子供や患者のように扱われ〔子供や患者にも主体性はあるだろう。健常者で、いつまでもパラサイトして主体性の無いやつもいるだろう〕、次第に家族や職員に依存的になり、前向きにチャレンジして生きていく意欲を失っていく状況に陥っていた。」

p・141「カネに対するこのような反感は、根拠の無いものである。カネを使うからといって、直ちに市場経済に巻き込まれるわけではない。貨幣には、交換、尺度、貯蔵、支払いの四つの機能があるが、このうち支払い機能は、交換や贈与によって生じた債務を、決済する機能のことである。おカネの歴史は、市場経済より古い。カネを生んだ人類の知恵は、捨てるのではなく活かしてよい。
介護保険のサービス価格は、公定価格であり、市場の需給メカニズムによって変動しない。それを貨幣で支払うのは、たった今受けたサービスという贈与をカネで決済することによって、債券・債務関係を今・ここで解消するという仕組みである。貨幣のやり取りによって、サービスの受け手は相手に無用な負い目を感じなくてすむし、・・・」

p・154「人口1000人あたりの精神病床数は、アメリカ0.5床、ドイツとフランス1.2床、イギリス0.9床に対して、日本は2.9床もあり、他の先進諸国と比べてはるかに多い。」

p・206「どんな運動や組織にも、いったん成立すれば、それ自身の存続が自己目的化してしまうという傾向がある。営利を目的とする企業体ならば、市場が必要としなくなれば、淘汰されるという道があるが、とりわけ非営利を旨とする公益事業、例えば国や自治体が作る外郭団体、公団・公社や財団などは、常態化し、肥大化するという傾向がある。
・・・組織を立ち上げるときには、その目的を決め、目的の完了と同時に組織が消滅するという、自己消滅系のシステム、遺伝子のようなものを組み込んでおく必要があるだろう。」
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by ganpoe | 2006-08-31 11:38 | Books


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